第6回「國松淳和賞」

 


第6回「國松淳和賞」は、本賞史上初、2作品共同受賞となりました。

『武器としての神経症候・高次脳機能障害の診かた 高次は地味だが役に立つ』(中外医学社)と『発達とトラウマから診る精神科臨床』(医学書院)の2作品です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。


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2025年もたくさんの良医書が世に出された。今年の私個人の独断的なテーマは「価格」であった。医師はびっくりするくらいケチで、医書代にお金をかけない。内容も見ずに「高い」など言いい、自分の技術向上の機会を高々5,000円〜10,000円程度の投資を惜しんで失っている。じつに勿体無い。


『武器としての神経症候・高次脳機能障害の診かた 高次は地味だが役に立つ』は、さっそく価格の話だが税込みで9,240円である。非常に安い。この本は、書名に釣られる。「"高次機能"がテーマの高度な専門書」なのではない。最・大上段に言えば、「症例から臨床を学ぶ本」のひとつの完成型であるといえる本である。


まず症例の数が多い。そして、症例の描写が詳細であるのに、一例あたりの分量が適切で、しかもレイアウトが良くクリアカットに理解しやすい。精読派の人も、読み飛ばし派の人にもよく合う。


何よりも、「高次脳機能障害」という、一般臨床医がかなり必要であるのにもかかわらず最も後回しにしたくなるテーマを扱っている点が素晴らしい。専門的すぎて近づき難い本が多い中で、これは一般臨床医がじつに取り組みやすい。何より内容が面白い。書名のうち、出だしの「神経症候」についても忘れてはならない。この本は、高次脳機能障害も含めた、脳神経学をジェネラルに網羅した教科書である。


冒頭、価格が私の今年のテーマだと述べたのであるが、この”激安本”が埋もれてしまうのは惜しい。ぜひ購入して読んでもらいたい。



『発達とトラウマから診る精神科臨床』は、内容があまりに素晴らしいが、書名で損をした。いや、悪いわけではないが、いかにも「支援系」の書籍だと早合点してしまう。ただこれは、内容を読む前の話である。読んでしまえば、この書名は適切とわかる。臨床医学の基本テキストとしてもいいくらいの素晴らしい本である。


この本を読み終えた時の私の感想は、とにかくこうであった: この本が、全臨床医はもちろん「発達症/発達障害」というwordにピンときたり、少しでも関心を抱く者すべてに届いて、読まれて欲しい。


ある患者をみたてるときに、病態を見抜くのとは別にむしろ最も重要だと思うのは、その人がどんな人であるかを診とることであると思っている。その際に重要なのは「特性」と「反応性(反応によって生じた状態像)」を読み解くことであるが、これらは常に複合的である。すなわち、ひとりの患者の中に複数の特性や病質などがそれぞれ異なった質と量で存在している。これが当たり前である。「発達症かどうか」「双極症なのか、否か」のようなみたてをする臨床医は、多く存在するが、治療が不得手に違いない。


この本を読めば、これまで曖昧にしか理解していなかった”ハッタツ”界隈の読み解き方について、急に視界が明るくなる。「ああ、このように理解しておけばいいのか」と合点すること間違いない。しかしこれには条件がある。疾病をよくしようとか、患者を治そうと思ったときに、「どの薬を使えばいいか」という頭しかない場合は理解しにくいかもしれない。著者は、繰り返し「どうかかわると良いか」について丁寧に述べてくれているが、これをモヤっとするとか、焦ったいと思うようではこの本の良さを見失う。ゆっくり噛み締めるように、時間がかかってもいいので読了する価値がある。



さて惜しくも賞を逃した、


・糖尿病のある人(person with diabetes)の診かた(中外医学社)

・フレーミングでとらえる臨床推論(日本医事新報社)

・診断+治療を完全攻略 皮膚疾患データブック(メジカルビュー社)

・[新訂版] 面接技術の習得法: 患者にとって良質な面接とは?(金剛出版)

・集中講義! おなかの身体診察 フィジカル&腹診で腹部症状に立ち向かえ(医学書院)

・胸壁症候群を「自信をもって」診療できる身体診察とエビデンス(シーニュ)

・名郷先生、臨床に役立つ論文の読み方を教えてください!(日本医事新報社)

・Unusual Inflammations ―日常診療に潜む“非典型”炎症を読み解く(中外医学社)


以上8作品も素晴らしいものだった。


「糖尿病のある人(person with diabetes)の診かた」は、今年の”書名賞”である。この視点は非常に斬新である。全人的という言葉が私が大学に入るころ流行ったが、この言葉を使わずに「人を診よう」というメーセージを端的に示すことに成功している。もし単著で書き切ったのなら、大賞を狙えた作品であった。


「フレーミングでとらえる臨床推論」は、もう諸家らが読み飽きたはずの臨床推論の書籍や文章にあって、じつに独自かつ質実剛健な内容であった。私は著者を知らないが、おそらくとんでもなく明晰な頭脳の持ち主であろう。分量の多い書籍ではないが、著者の脳はこの本の5万倍くらいのシステムが入っているのではないか。


「診断+治療を完全攻略 皮膚疾患データブック」は、税込み7,150円であり、今回國松賞に選ばれた『武器としての神経症候・高次脳機能障害の診かた 高次は地味だが役に立つ』と同様、非常に安い本である。こんな臨床に有用な本があるか! とシンプルに述べて終わりでいいくらい、良い本である。高いという理由だけでこういう本を買わない医師たちは、一体どうやって日々の臨床をブラッシュアップしているのだろうか。


「[新訂版] 面接技術の習得法: 患者にとって良質な面接とは?」は、「優しい感じで、読みやすい教科書」に仕上がっているのにもかかわらず、内容が深く、濃く、そして日常診療に有益である。正直これは、医書を書く者にとって目指すべきひとつの到達点な気がする。卓越した臨床家だが、まだ本を書いたことのない医師がいれば、この本のような雰囲気を目指して執筆して欲しい。


「集中講義! おなかの身体診察 フィジカル&腹診で腹部症状に立ち向かえ」は、出版社&著者から献本されてしまったので、ノミネートにとどまる。このルールは、國松賞を昔からフォローしてきた者なら知っているだろう。出版社/編集者によっては、國松賞を狙う場合は國松に献本しない者すらいる。この本は素晴らしいが、身体診察/フィジカルというより腹部診療の本である。そこがひたすら勿体無い。中野先生という穏やかで優しく、とんでもない怪物なのにまったく我が強くない素晴らしい臨床医が単著で書き上げたのだから、こんな微妙なタイトルにするべきではなかった。


「胸壁症候群を「自信をもって」診療できる身体診察とエビデンス」は、このテーマで書籍となることが本当に素晴らしい。とにかく世に出す、という営為は個人的に本当にリスペクトする。ただし価格は税込み2,200円と非常に割高である。が、一般内科外来など外来中心に実践する諸家にとっては必読の一冊である。


「名郷先生、臨床に役立つ論文の読み方を教えてください!」は、これも出版社&著者から献本されてしまったので、ノミネートにとどまる。この”COI”がなければ、受賞していたかもしれない。一見、文献の読み解き方、EBMの実践を開陳する本、という理解で済ませたくなる書籍である。しかしこの本は斬新で、本当に書名通りである。すなわち、「臨床に役立つ論文の読み方」を手解きしてくれる。この本を読んで私は恥ずかしくなった。「論文の読み方」というのは本来このように教わるべきで、それは研修医になったときに点滴のオーダーを習うとか、感染症の本を一冊読むとか、当直のマニュアルを買って読んでおく、といったことと同列であると、今回ようやく知った。恥ずかしい。


「Unusual Inflammations ―日常診療に潜む“非典型”炎症を読み解く」、とんでもない快著がこの世に出てしまった。ページ数/分量は多くはないが、これは教科書である。「炎症」がテーマだが、単にそこが眼目になっていない。まずは掲載疾患を深く理解するための本と考えたい。一番斬新なのは、非血液内科医によってフローサイトメトリーの読みが記載されている点であろう。非血液内科医の臨床的な関心事(というか困り事)は、良・悪性が曖昧な炎症病態である。悪性のみを関心事とする血液内科医に頼ると、患者が救われないことがある。この本は、ちゃんと自分で診なきゃいけないな、という気にさせてくれる。



あらためて、今回の國松賞共同受賞2作品『武器としての神経症候・高次脳機能障害の診かた 高次は地味だが役に立つ』と『発達とトラウマから診る精神科臨床』に祝福の意を示したい。そして、第7回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和 

第5回「國松淳和賞」

 


第5回「國松淳和賞」は、『シャルコーノート』(中外医学社)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。


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2024年は、粒が揃っていたのか、たくさんの良き医書が世に出されたように思った。ただその割にというか、もっともっと、多くの人が教科書をどんどん読んで欲しいと思えた1年だった。


『シャルコーノート』は、久々に頭から最後まで飛ばさずに夢中で読んだ。非常に面白かった!! 読書体験として、抜群に面白く、受賞に値するとすぐに思った。


入念な調査、詳細で深い分析をベースに、著者の教養や博識さ、そして卓越した筆力でもって書かれたこの本は、新書のような単なる教養書のようなものとまったくならず、むしろその文章の雰囲気は文芸に近いとも言える柔らかい表現である。私見もふんだんに記述されており、なんというか、少しも読み飛ばせない雰囲気が随所にある。


企画の構造自体も大変新規性が高く、他の追随を許さない。医学出版社から出版されているわけだが、絶妙な立ち位置となる内容。神経学に関心が薄い人や、神経内科の診療に関係ない人にはあまり面白くなく思えるかもしれないが、とにかく私には面白かった。



さて惜しくも賞を逃した、


・ここからはじめる輸液・電解質管理: 「わかる」から「できる」へステップアップ(南江堂)

・みんなの脳神経内科Ver.2(中外医学社)

・医師のための処方に役立つ薬理学 診療が変わる!薬の考え方と使い方(羊土社)

・機能性神経障害診療ハンドブック 脳神経内科,精神科,総合診療科のギャップを埋める!極める!(中外医学社)

・ひとりでも書ける症例報告 クリニカルピクチャー論文のすすめ(中外医学社)

・今夜からもう困らない!夜の症状緩和(南江堂)

・在宅医のアタマの中が見える!在宅医療の道しるべ(金芳堂)

・小児栄養のトリセツ(金原出版)

・式から読み解く 臨床に役立つ生理学(中外医学社)


以上9作品も素晴らしいものだった。


「ここからはじめる輸液・電解質管理: 「わかる」から「できる」へステップアップ」は、電解質の教科書がたくさんある中で頭抜けていると思った。が、著者の辻本氏は、私の20年来の友人で年賀状までやり取りしている仲であるため受賞は不可である。


「みんなの脳神経内科Ver.2」には恐れ入った。初版は、初学者向けでいい本だな〜くらいの感想だったが、このタイミングできちんと改訂・加筆している点に、最大級の賞賛を贈りたい。多忙な臨床医が、書籍を改訂するのはとんでもない労力が要る。何より内容が良い。これからも売れて欲しい。


「医師のための処方に役立つ薬理学 診療が変わる!薬の考え方と使い方」は、極めて有用な書籍である。臨床医は、生理学や解剖学の知識が必要だが、薬理学に関しても知る必要があり本書はその導入・補完に向いている。必読と言っていい本である。


「機能性神経障害診療ハンドブック 脳神経内科,精神科,総合診療科のギャップを埋める!極める!」は、またしても著者が偉大な仕事をした、という感想である。昨年も述べたが、このテーマでまとめて”いち早く”世に出したことの意味が極めて大きい。これは、悩ましい患者を診ている臨床医にとっては非常に助かる。患者当事者もたくさん購入することになると思われるからだ。


「ひとりでも書ける症例報告 クリニカルピクチャー論文のすすめ」は、限りなく受賞に近かった。このテーマで1冊書き上げるのは、アイデアはもちろんだが、著者のやってきたこととその熱量によるところが大きい。著書に対してこの上ない賛辞を贈りたい。


「今夜からもう困らない!夜の症状緩和」は、今年の”書名賞”と言っていいだろう。書名が良いと國松賞が近くなる法則がなくはないが、書名は2024年ナンバーワンである。しかし内容は、著者らではなく、企画的にもう2押しくらい欲しかった。内科全般+精神科系というものにして分厚くすれば、研修医などの定番になった可能性がある。


「在宅医のアタマの中が見える!在宅医療の道しるべ」は、在宅医のことを知ろうと思って購入した書籍で、まったくもって書名の通りであった。単純に自分の知らないことがわかったのでよかった。


「小児栄養のトリセツ」は、ご存知小児トリセツシリーズ。栄養学は臨床医のアキレス腱であり、そこへ小児科が掛け合わされた企画である。この手があったか! とその企画力と、このテーマで書き切る著者の実力がものすごい。


「式から読み解く 臨床に役立つ生理学」は、式からという部分が印象的で斬新だったのでノミネートした。生理学の勉強は不断になされるべきで、これからもこうした好著が世に出され続けて欲しい。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『シャルコーノート』に祝福の意を示したい。そして、第6回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和 








第4回「國松淳和賞」



第4回「國松淳和賞」は、『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』(中外医学社)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。


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2023年もまた、ノミネート作の選考、また受賞作品の選考自体もやや消極的な意味で難航した。ただそういう年こそ、この賞の意義があると思った。


『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』は、非常に良い企画、良き内容だった。詳しくは読んで欲しいが、この領域についての問題点が、細かく網羅されていた。このテーマだけでこの厚み。見事というほか無い。


大きなテーマで、大まかに網羅されていることはよくある。結果として内容が薄まる。しかしこの本は、救急医療の臨床をやっていないと問えないテーマがきちんと濃厚に網羅されていた。


また共同執筆にもかかわらず、不思議と内容のバラツキがなく、記述内容自体も良かった。編者の実力なのだと思う。


この本の末恐ろしいのは、適した読み手が「救急医」にとどまらないところだ。研修医、外来をやる医師、...のみならず医師以外の医療者にも有用かもしれないと思った。ぜひ書店で立ち読みして、確認してみて欲しい。



さて惜しくも賞を逃した、


・その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ(メディカルサイエンスインターナショナル)

・General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls(Gakken)

・神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ(医学書院)

・自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック(金芳堂)

・偽者論(金原出版)

・急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT(金芳堂)

・J-IDEO (ジェイ・イデオ) : (次の2つの号をノミネート)Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths、Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ(中外医学社)

・みてわかる!ニキビ診療虎の巻(南江堂)

・解剖から理解する頚椎診療(日本医事新報社)

・患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法(医学書院)

・はじめての精子学(中外医学社)


以上11作品も素晴らしいものだった。


「その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ」のような書籍こそ、臨床医の実力アップに必要な本だと思う。通読するにはタフな内容だが、外来に置いておき、たまに開いて参照して読むというのが適切な使い方だと思った。


「General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls」は、とにかく解説が充実している。よって勉強しやすく、実力が付いたという感触を得やすい。


「神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ」は、単著で書かれた名著の改訂版だが、見事である。単著は、一臨床家の独りよがりだという批判を受けるリスクがあるが、福武先生の物言いはとても穏やかで内容も誠実なので、読み手に安心感を与える。


「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」は、網羅した本の中では最高峰で、このテーマでまとめて世に出したことの意味が大きい。このテーマの雑誌の特集号をもう買わなくてよくなったという手応えを持った。


「偽者論」は、國松個人の後輩・知己の著した書であり、なるべくそこ(COI的なもの)を排さねばらならず受賞は逃したが、ノミネートは妥当であろう。今年何回も読み直した。装丁やレイアウトに惑わされてはいけない。誠実な臨床の実用書だと思う。決して、キワモノ・企画モノの書ではない。


「急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT」は、窪田先生の最新刊であったのでノミネートした。窪田先生は素晴らしい。


「J-IDEO (ジェイ・イデオ) 」は、次の2つの号をノミネートした。

 ・Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths

 ・Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ」

この「非コロナ」の2テーマの号が非常に秀逸だった。なんでもかんでもコロナに寄りかかっていたこの時期に、コロナ以外のテーマを企画し仕上げた号であり、そこに敬意を表したい。個々の著者はもちろんだが、編集部に対してのノミネートである。


「みてわかる!ニキビ診療虎の巻」は、なかなかこのテーマで一冊という企画はなく、感動した。内容もわかりやすい。内科医もこの内容は小技として診療に取り入れたい。


「解剖から理解する頚椎診療」は、この本は非常におすすめである。内容だけで言えば退屈しそうな内容なのに、なぜか読みやすい。「頚椎への愛に満ちた編者2人による頚椎の解剖と疾患解説はわかりやすいのはもちろん、読み進めるとワクワクが止まりません」というコピーが、あながち誇大広告ではない。


「患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法」は、読書好きの人が好きそうな内容。が、國松は読書家ではない。もともと「医師アタマ」の読者であった私が、時を超えてこの本に出会いリスペクトの意味でノミネート。内容は、私が成長した分、感動は少なかったが内容がさすがであった。


「はじめての精子学」は、完全に今年の”企画賞”であろう。ある細かいテーマで一点突破して一冊にするという概念自体は新しくないのだが、このテーマ(精子)は思いつかなかった。素晴らしい。内容は、マニアックなものではなく、どちらかというと抽象テーマという位置づけで、内容はかなり広範囲である。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』に祝福の意を示したい。そして、第5回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和 

第3回「國松淳和賞」

  


第3回「國松淳和賞」は、『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』(丸善出版)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。

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2022年は正直言ってあまり強い作品がなかったように思った。コロナ禍となってから企画されてそれがなんとか結実した書籍たちが、2022年に発売されたということかもしれない。いろいろな制限のなか世に出た本たちだと思うと感慨深い。


『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』の受賞の理由は、「初期研修医全員が読むべき本」だと強く強く思ったからである。これに尽きる。


発熱した患者に血培を採る、アナフィラキシーの対応を勉強しておく、胸痛をきたす致死的な疾患を知っておく....のように、初期研修で習得すべきことがある。


本書は、「睡眠薬処方」が初期研修での習得必須項目になるべきであることを大いに示し、それだけでなく、その習得のための良いテキストになっているという点で比類がない。


(ある意味では)概念の創出、専門医としての総論力の深み、記述の分かりやすさ、どれをとってもかなわないのである。本書の存在意義は大きい。


情報量が多い!まとまってる! ...のようなことを本の良さと考えている諸氏には拍子抜けする本かもしれない。しかし、多くの人にとって大きく考え方が変わるかもしれないという種類の本は、このような本だったりするのではないか。


研修医や新しく研修医になる人たち全員が、この本を手にして読まれることを期待する。



さて惜しくも賞を逃した、


ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

女性内分泌 みえる!わかる!(メジカルビュー社)

骨代謝マーカーハンドブック(日本骨粗鬆症学会)

トラブルを未然に防ぐカルテの書き方(医学書院)

消化器疾患のゲシュタルト(金芳堂)

速考!脊椎外来診療エッセンス(南江堂)

Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)(南山堂)

絵でわかる漢方処方(南山堂)

お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版(南山堂)

不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ(新興医学出版社)


以上11作品も素晴らしいものだった。


「ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ」は、あまり隠れてもない名著で、しかしこれは思われているよりもアドバンストな内容な気がする。個人的には大変に役に立ったので続編を期待したい。


「外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編」は、このような内容が、大変優しく、実践しやすいように記述されていて、好感を抱いた。


「女性内分泌 みえる!わかる!」は2022年で至高の”教科書”と言えたと思う。限りなく次点であった。解剖や生理学からきちんと記述されており、学生、研修医、ベテラン医、非専門医、あまり読者を選ばない。しっかりと基礎から学びたい人におすすめする、安心の一冊である。


「骨代謝マーカーハンドブック」は、この分野だけで一冊となるアイデア、本のサイズや記述の内容、すべてにおいて秀逸だった。


「トラブルを未然に防ぐカルテの書き方」は、この分野の内容としては非常にわかりやすかった。網羅的でもあり、大変参考になった。


「消化器疾患のゲシュタルト」は、さすがの構成力だった。内容も言うことがなくくらい素晴らしい。ただ國松が執筆を一部担当しているので、そこが受賞の対象外となってしまう点だった。


「速考!脊椎外来診療エッセンス」は、完全に書名通りの内容で、簡潔かつ実践的な内容が素晴らしい。大変役に立った。


「Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)」は、本当に素晴らしい企画であった。開業するなど、今後外来を中心にやっていきたい医師は必読と思われる。


「絵でわかる漢方処方」は完全にアイデア賞である。「もうほんとこのまんま人(患者)」みたいな事例が多く、隠れて界隈で騒然となっている本。今後、ちょくちょく勧めていく予定の本である。


「お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版」もさすがの内容で、十分受賞候補だったが、前年(第2回)の受賞作とコンセプトが被る面があり受賞を逃した。ただ、このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトする。書名も良い。


「不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ」は、双極性障害とその周辺を、標準的に抑えたい諸氏にもおすすめする。私のような内科医にちょうど良いのではないだろうか。不安症の診療の中で「双極性に鋭敏になる(p.114)」ことは、抽象的には非常に重要な思考であり、この種の思考が精神科医に精通していけば、精神科における身体症状診療が盛り上がっていくのではという期待を持って選考した。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』に祝福の意を示したい。そして、第4回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和   

第2回「國松淳和賞」

 


第2回「國松淳和賞」は、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



2021年は昨年と違い、選考が難航した。その理由も明確で、下記ノミネート作品の多さからもわかるように、純粋に良い本がたくさんあったように思った。ノミネート外となった作品にも良いものがあり、つまりは「たくさんあって迷った」のだった。


受賞した、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』は、國松の選ぶ本としては意外に思われるかもしれないが、この本はとにかく総合点として快著である。


意外な点、というのはこの本が単著ではないというところだと思う。つまり分担執筆なのだが、責任編者自身もかなり記述しているし、他の先生も単著を張れるくらいのパワフルな執筆陣である。


個人的に一番決定的なポイントは、「内診台がなくてもできる女性診療 」という書名である。このフレーズ、最高である。内診台がなくてもできる女性診療・・・・。逆にマイナス点は、タイトルの「内診台がなくてもできる女性診療」以外の飾りだと思う。


”専門医からのアドバイス”

”外来診療からのエンパワメント”


これは・・・要らないのではないか。おそらく出版社がつけたサブ的表題だろう。「内診台がなくてもできる女性診療」だけだったら、こんな余韻をひき、魅力的な素晴らしいタイトルはない、と思う。


「内診台がなくてもできる」の修辞力の強さを、関係者はもっと噛み締めたほうがいい。「内診台がなくてもできる」の含意を、1時間くらいかけてディスカッションしてみたらどうだろうか。

内診台がなくてもできる。なんとパワフルなフレーズだろう。これだけで受賞をかっさらって行ったと言っていい。


内容も十二分である。好感を持てたのはまずはその網羅性である。だから、通読すれば文字通り体系に触れることができ、勉強になる。


おそらくであるが、これは医師以外、あるいは医療従事者以外の人にでも読める内容だと思う。確かな教養の軸として、文字通り一家に一冊あるといいかもしれない。


最後に、この本の企画の成功の1つは、責任編者の人間的魅力にあるだろうか。このような本は、例えば大学教授などによるトップダウン方式では、成功なし得ない。分担執筆でいながら、皆が思考として同じものを目指しているという、編集本の理想中の理想が、この本は成功の結実として体現されている。



さて惜しくも賞を逃した、


・解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study

・サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床

・消化器診療プラチナマニュアル

・診察室の陰性感情

・ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて

・誤嚥性肺炎の主治医力

・免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から

・すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで

・ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール

・極論で語る神経内科 第2版

・オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips

・虜になる循環の生理学 循環とは何か?


以上12作品も素晴らしいものだった。


「解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study」は、極めて斬新な企画で、軽妙なケーススタディ方式であるものの、とても引き込まれる内容になっていた。

「サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床」は、たぶん4, 50年くらい先取ってしまったような内容であり、素晴らしい。この本を単なるエッセイと揶揄する者は、どういう了見だろうか。エッセイでは全く無い。その評は、今から撤回したほうがいいかもしれない。

「消化器診療プラチナマニュアル」も良かった。この小さなサイズで、消化器のアンチョコが今まであったようでなかった。外来で役立つ。

「診察室の陰性感情」は、限りなく次点であった。私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて」もこの時期に出版できた、全関係者の行動力にリスペクトしたい。

「誤嚥性肺炎の主治医力」も、内容はもちろんだが、書名が素晴らしい。「内診台がなくてもできる女性診療」とセットで、今季の”書名賞”だと思う。

「免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から」もまた、限りなく受賞の次点だった。ただいかんせん・・・私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで」は、本当に素晴らしい企画であった。今後もしっかりと推したい快著である。

「ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール」という素晴らしい教科書が出版されたのも今季であった。リウマチ膠原病の診療で最初のおすすめはと、医学生・研修医に訊かれたらこれを推すことにする。なお、網羅性も重視してあるため、リウマチ膠原病の患者当事者などがこの書を読んでも、全く役立たないのでお気をつけを。

「極論で語る神経内科 第2版」もさすがの内容であった・・・。このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトしたい。

「オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips」は、ケースレポートを世に出すことの手引き書で、拙著でも「はじめての学会発表 症例報告(2016年, 中山書店)」を類書があるが、この本はそれを遥かに凌駕している。

「虜になる循環の生理学 循環とは何か?」はむしろ、私が評などをするまでもないベストセラーであり、もちろん内容も素晴らしい。受賞でもおかしくなかった。



あらためて、作品『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』に祝福の意を示したい。そして、第3回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和     


第1回「國松淳和賞」



第1回「國松淳和賞」は、『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に決定しました!受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



今年は、自分の感受性のせいなのか、「断然これだ」のような電撃的な医書はなかったと感じた。先に申し上げておくが、ノミネートされた他の本も非常に良い本であった。

受賞した、『腹痛の「なぜ?」がわかる本』は様々な意味で衝撃的な本だった。よく分からずに読んだら、いや、よくわかっていない人がこの本を読んだら「この本は少し理屈っぽいな」と思うかもしれない。

この本からは、筆者の、年月を経て重厚になって揺るがない「哲学」のようなものが、ズシーンと衝撃波のような感覚で伝わって来る。

その哲学が医学書という実用書として具現化されたのが、この本の第1章。すべてはこの1章だと思われる。この章の”総論性”つまりは”原理”があまりに揺るがないため、その記述量は多くない。

ただ、どんなに腹痛診療に慣れようとも、この第1章に戻り確認するといい。武道やスポーツで、自分の「型」やフォームを折りに触れ確認するように。

そんなように使う本なのだと思った。

筆者が、事実上「匿名」を利用していることの不満があるということを知ったが、誰が書いたかが重要になるような記載内容ではない。それほどまでにこの本の記述は、圧倒的だと思う。

この本の中に書かれていることと同じことができる外科医もいるかもしれない。しかしこの言語化は、飛び抜けている。単に文章力のようなことを言いたいのではない。

ぜひ、手元におき、皆様の”素振り”に役立てますよう。


さて惜しくも賞を逃した、


高齢者のための高血圧診療(名郷直樹)

精神症状から身体疾患を見抜く(尾久守侑)

本質の寄生虫(岩田健太郎)


の3作品も素晴らしいものだった。

名郷直樹氏の「高齢者のための高血圧診療」は、実用書にたりえなかった感は否めない。しかし、書籍の隅々まで名郷直樹という”思想家”の箴言が余すことなく散りばめられていた。

尾久守侑氏の「精神症状から身体疾患を見抜く」は、流麗な文章が気を惹くが、企画・内容は極めて斬新かつ堅実である。題名がそのまま臨床現場でのテーマになっており、あるいは精神医学を少し齧れるような内容にもなっている。いずれにせよ、全・内科医および全・精神科医の必携の書になった。また、尾久氏の初の医書であり、新人賞なるものがあれば間違いなく受賞するであろう。

岩田健太郎氏の「本質の寄生虫」こそが、今年最も過小評価された書かもしれない。テーマの切り口と構成が秀逸だったが、今年はコロナウイルス以外の病原体がほとんど話題にならなかった。この本の関係者の怨めしい思いが聞こえてくる。専門家が、専門家以外の人に向かって話し言葉で説明するその「言葉」こそが宝なのだ。岩田氏はそこを知り抜いていて、しかもそれを書籍出版というかたちで著した。何も創り出せないような外野が「彼」を批判しようとも、「この本」の価値を下げる資格はないだろう。


あらためて、作品『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に祝福の意を示したい。そして、第2回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。

國松 淳和     






プロぷよら〜をあきらめた理由



大学時代に私は講義や実習にも出ず、ぷよぷよをしていた。
雨の日も風の日も、雪が積もった日だって、日々日常の視界には、何をしていても上からぷよが落ちてくる。落ちてくる。

積み、挟み、仕掛け、千切って、消す。
ぷよる。
あれだけぷよっていれば脳がぷより始める(もう意味不明)。

今や少しムーブメントがみられるが、これはプロゲーマーになれるのではないかと思った。
ぷよぷよは競技性もエンタメ性も高い。技術や戦術も奥が深い。これは来ると思った。

講義も実習もサボる僕が医者になれるとも限らないし、なれてもイマイチな医者になる可能性は高い。
何か副業かそれ以上のものが必要かもしれないと思ったのだ。

そう思ってますますぷよぷよに打ち込んだ。
気分はもう完全に武道である。

が、私はある時気づいてしまったのである。

あれは確か御茶ノ水のゲームセンターだったと思う。
名うてのぷよら〜たちがいたところだったが、とあるぷよら〜のプレイをみて思った。

他人のプレイを見ているときは、自分ならこうするとトレースしながら見るものだ。
そのぷよら〜は速さとか戦術は別に自分と大差ないと思った。
しかし、何かが自分と違う。瞬間的な判断力・・?すぐにわからなかった。
超えられない壁を感じたのが、それを言語化できなかった。

帰り道に、御茶ノ水のバーガーキングでハンバーガーを食べている最中、もう9割がた埋まったバーガーキングのスタンプカードをぼーっと見ながら閃いた。

色だ。

色なんだと思った。
ぷよぷよには、青ぷよと紫ぷよがあって、おそらく通常・正常のプレイではなんの問題にもならない。しかし最強界では一瞬の判断の差が重要になってくる。

あのぷよら〜と自分との差は、おそらく、「NEXTぷよ(次と、次の次に落ちて来るぷよぷよの組)」の色を瞬間的に認識するのが劣っているのだ。そういう仮説を思いついたのだ。

確かにそれより前から「色」は弱かった。
自分がこういう色だと思っていたものが、他人と認識が違かったことは何度もあった。ちなみに今もある。

寂しい話だけれど、そのあとくらいから急速にぷよ熱(ぷよぷよフィーバー)がおさまってしまった。

あのとき僕は確かにプロぷよら〜を目指した。
なっていたら今頃sSports界で有名人となり年間数億稼ぐプロゲーマーに・・・

まあなっていない可能性の方が高い。
高いかもしれないが、大学生・國松淳和はあのとき確かに頂上を目指した。
今は歳をとり、頂上だけが全てではないと思えるまでは熟したと思う。

ただ今は、いろんな意味(察して)でプロ業界に身を置いていないこともない。
不規則かつ瞬間的に現れる青ぷよと紫ぷよの色合いの差を平然と弁別することが、それが毛髪の直径くらい小さな差であっても、とても大事で大きな差に繋がるのだ。そう心得ていようと思った。