第4回「國松淳和賞」



第4回「國松淳和賞」は、『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』(中外医学社)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。


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2023年もまた、ノミネート作の選考、また受賞作品の選考自体もやや消極的な意味で難航した。ただそういう年こそ、この賞の意義があると思った。


『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』は、非常に良い企画、良き内容だった。詳しくは読んで欲しいが、この領域についての問題点が、細かく網羅されていた。このテーマだけでこの厚み。見事というほか無い。


大きなテーマで、大まかに網羅されていることはよくある。結果として内容が薄まる。しかしこの本は、救急医療の臨床をやっていないと問えないテーマがきちんと濃厚に網羅されていた。


また共同執筆にもかかわらず、不思議と内容のバラツキがなく、記述内容自体も良かった。編者の実力なのだと思う。


この本の末恐ろしいのは、適した読み手が「救急医」にとどまらないところだ。研修医、外来をやる医師、...のみならず医師以外の医療者にも有用かもしれないと思った。ぜひ書店で立ち読みして、確認してみて欲しい。



さて惜しくも賞を逃した、


・その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ(メディカルサイエンスインターナショナル)

・General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls(Gakken)

・神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ(医学書院)

・自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック(金芳堂)

・偽者論(金原出版)

・急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT(金芳堂)

・J-IDEO (ジェイ・イデオ) : (次の2つの号をノミネート)Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths、Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ(中外医学社)

・みてわかる!ニキビ診療虎の巻(南江堂)

・解剖から理解する頚椎診療(日本医事新報社)

・患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法(医学書院)

・はじめての精子学(中外医学社)


以上11作品も素晴らしいものだった。


「その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ」のような書籍こそ、臨床医の実力アップに必要な本だと思う。通読するにはタフな内容だが、外来に置いておき、たまに開いて参照して読むというのが適切な使い方だと思った。


「General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls」は、とにかく解説が充実している。よって勉強しやすく、実力が付いたという感触を得やすい。


「神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ」は、単著で書かれた名著の改訂版だが、見事である。単著は、一臨床家の独りよがりだという批判を受けるリスクがあるが、福武先生の物言いはとても穏やかで内容も誠実なので、読み手に安心感を与える。


「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」は、網羅した本の中では最高峰で、このテーマでまとめて世に出したことの意味が大きい。このテーマの雑誌の特集号をもう買わなくてよくなったという手応えを持った。


「偽者論」は、國松個人の後輩・知己の著した書であり、なるべくそこ(COI的なもの)を排さねばらならず受賞は逃したが、ノミネートは妥当であろう。今年何回も読み直した。装丁やレイアウトに惑わされてはいけない。誠実な臨床の実用書だと思う。決して、キワモノ・企画モノの書ではない。


「急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT」は、窪田先生の最新刊であったのでノミネートした。窪田先生は素晴らしい。


「J-IDEO (ジェイ・イデオ) 」は、次の2つの号をノミネートした。

 ・Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths

 ・Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ」

この「非コロナ」の2テーマの号が非常に秀逸だった。なんでもかんでもコロナに寄りかかっていたこの時期に、コロナ以外のテーマを企画し仕上げた号であり、そこに敬意を表したい。個々の著者はもちろんだが、編集部に対してのノミネートである。


「みてわかる!ニキビ診療虎の巻」は、なかなかこのテーマで一冊という企画はなく、感動した。内容もわかりやすい。内科医もこの内容は小技として診療に取り入れたい。


「解剖から理解する頚椎診療」は、この本は非常におすすめである。内容だけで言えば退屈しそうな内容なのに、なぜか読みやすい。「頚椎への愛に満ちた編者2人による頚椎の解剖と疾患解説はわかりやすいのはもちろん、読み進めるとワクワクが止まりません」というコピーが、あながち誇大広告ではない。


「患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法」は、読書好きの人が好きそうな内容。が、國松は読書家ではない。もともと「医師アタマ」の読者であった私が、時を超えてこの本に出会いリスペクトの意味でノミネート。内容は、私が成長した分、感動は少なかったが内容がさすがであった。


「はじめての精子学」は、完全に今年の”企画賞”であろう。ある細かいテーマで一点突破して一冊にするという概念自体は新しくないのだが、このテーマ(精子)は思いつかなかった。素晴らしい。内容は、マニアックなものではなく、どちらかというと抽象テーマという位置づけで、内容はかなり広範囲である。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』に祝福の意を示したい。そして、第5回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和 

第3回「國松淳和賞」

  


第3回「國松淳和賞」は、『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』(丸善出版)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。

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2022年は正直言ってあまり強い作品がなかったように思った。コロナ禍となってから企画されてそれがなんとか結実した書籍たちが、2022年に発売されたということかもしれない。いろいろな制限のなか世に出た本たちだと思うと感慨深い。


『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』の受賞の理由は、「初期研修医全員が読むべき本」だと強く強く思ったからである。これに尽きる。


発熱した患者に血培を採る、アナフィラキシーの対応を勉強しておく、胸痛をきたす致死的な疾患を知っておく....のように、初期研修で習得すべきことがある。


本書は、「睡眠薬処方」が初期研修での習得必須項目になるべきであることを大いに示し、それだけでなく、その習得のための良いテキストになっているという点で比類がない。


(ある意味では)概念の創出、専門医としての総論力の深み、記述の分かりやすさ、どれをとってもかなわないのである。本書の存在意義は大きい。


情報量が多い!まとまってる! ...のようなことを本の良さと考えている諸氏には拍子抜けする本かもしれない。しかし、多くの人にとって大きく考え方が変わるかもしれないという種類の本は、このような本だったりするのではないか。


研修医や新しく研修医になる人たち全員が、この本を手にして読まれることを期待する。



さて惜しくも賞を逃した、


ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

女性内分泌 みえる!わかる!(メジカルビュー社)

骨代謝マーカーハンドブック(日本骨粗鬆症学会)

トラブルを未然に防ぐカルテの書き方(医学書院)

消化器疾患のゲシュタルト(金芳堂)

速考!脊椎外来診療エッセンス(南江堂)

Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)(南山堂)

絵でわかる漢方処方(南山堂)

お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版(南山堂)

不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ(新興医学出版社)


以上11作品も素晴らしいものだった。


「ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ」は、あまり隠れてもない名著で、しかしこれは思われているよりもアドバンストな内容な気がする。個人的には大変に役に立ったので続編を期待したい。


「外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編」は、このような内容が、大変優しく、実践しやすいように記述されていて、好感を抱いた。


「女性内分泌 みえる!わかる!」は2022年で至高の”教科書”と言えたと思う。限りなく次点であった。解剖や生理学からきちんと記述されており、学生、研修医、ベテラン医、非専門医、あまり読者を選ばない。しっかりと基礎から学びたい人におすすめする、安心の一冊である。


「骨代謝マーカーハンドブック」は、この分野だけで一冊となるアイデア、本のサイズや記述の内容、すべてにおいて秀逸だった。


「トラブルを未然に防ぐカルテの書き方」は、この分野の内容としては非常にわかりやすかった。網羅的でもあり、大変参考になった。


「消化器疾患のゲシュタルト」は、さすがの構成力だった。内容も言うことがなくくらい素晴らしい。ただ國松が執筆を一部担当しているので、そこが受賞の対象外となってしまう点だった。


「速考!脊椎外来診療エッセンス」は、完全に書名通りの内容で、簡潔かつ実践的な内容が素晴らしい。大変役に立った。


「Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)」は、本当に素晴らしい企画であった。開業するなど、今後外来を中心にやっていきたい医師は必読と思われる。


「絵でわかる漢方処方」は完全にアイデア賞である。「もうほんとこのまんま人(患者)」みたいな事例が多く、隠れて界隈で騒然となっている本。今後、ちょくちょく勧めていく予定の本である。


「お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版」もさすがの内容で、十分受賞候補だったが、前年(第2回)の受賞作とコンセプトが被る面があり受賞を逃した。ただ、このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトする。書名も良い。


「不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ」は、双極性障害とその周辺を、標準的に抑えたい諸氏にもおすすめする。私のような内科医にちょうど良いのではないだろうか。不安症の診療の中で「双極性に鋭敏になる(p.114)」ことは、抽象的には非常に重要な思考であり、この種の思考が精神科医に精通していけば、精神科における身体症状診療が盛り上がっていくのではという期待を持って選考した。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』に祝福の意を示したい。そして、第4回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和   

第2回「國松淳和賞」

 


第2回「國松淳和賞」は、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



2021年は昨年と違い、選考が難航した。その理由も明確で、下記ノミネート作品の多さからもわかるように、純粋に良い本がたくさんあったように思った。ノミネート外となった作品にも良いものがあり、つまりは「たくさんあって迷った」のだった。


受賞した、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』は、國松の選ぶ本としては意外に思われるかもしれないが、この本はとにかく総合点として快著である。


意外な点、というのはこの本が単著ではないというところだと思う。つまり分担執筆なのだが、責任編者自身もかなり記述しているし、他の先生も単著を張れるくらいのパワフルな執筆陣である。


個人的に一番決定的なポイントは、「内診台がなくてもできる女性診療 」という書名である。このフレーズ、最高である。内診台がなくてもできる女性診療・・・・。逆にマイナス点は、タイトルの「内診台がなくてもできる女性診療」以外の飾りだと思う。


”専門医からのアドバイス”

”外来診療からのエンパワメント”


これは・・・要らないのではないか。おそらく出版社がつけたサブ的表題だろう。「内診台がなくてもできる女性診療」だけだったら、こんな余韻をひき、魅力的な素晴らしいタイトルはない、と思う。


「内診台がなくてもできる」の修辞力の強さを、関係者はもっと噛み締めたほうがいい。「内診台がなくてもできる」の含意を、1時間くらいかけてディスカッションしてみたらどうだろうか。

内診台がなくてもできる。なんとパワフルなフレーズだろう。これだけで受賞をかっさらって行ったと言っていい。


内容も十二分である。好感を持てたのはまずはその網羅性である。だから、通読すれば文字通り体系に触れることができ、勉強になる。


おそらくであるが、これは医師以外、あるいは医療従事者以外の人にでも読める内容だと思う。確かな教養の軸として、文字通り一家に一冊あるといいかもしれない。


最後に、この本の企画の成功の1つは、責任編者の人間的魅力にあるだろうか。このような本は、例えば大学教授などによるトップダウン方式では、成功なし得ない。分担執筆でいながら、皆が思考として同じものを目指しているという、編集本の理想中の理想が、この本は成功の結実として体現されている。



さて惜しくも賞を逃した、


・解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study

・サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床

・消化器診療プラチナマニュアル

・診察室の陰性感情

・ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて

・誤嚥性肺炎の主治医力

・免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から

・すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで

・ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール

・極論で語る神経内科 第2版

・オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips

・虜になる循環の生理学 循環とは何か?


以上12作品も素晴らしいものだった。


「解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study」は、極めて斬新な企画で、軽妙なケーススタディ方式であるものの、とても引き込まれる内容になっていた。

「サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床」は、たぶん4, 50年くらい先取ってしまったような内容であり、素晴らしい。この本を単なるエッセイと揶揄する者は、どういう了見だろうか。エッセイでは全く無い。その評は、今から撤回したほうがいいかもしれない。

「消化器診療プラチナマニュアル」も良かった。この小さなサイズで、消化器のアンチョコが今まであったようでなかった。外来で役立つ。

「診察室の陰性感情」は、限りなく次点であった。私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて」もこの時期に出版できた、全関係者の行動力にリスペクトしたい。

「誤嚥性肺炎の主治医力」も、内容はもちろんだが、書名が素晴らしい。「内診台がなくてもできる女性診療」とセットで、今季の”書名賞”だと思う。

「免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から」もまた、限りなく受賞の次点だった。ただいかんせん・・・私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで」は、本当に素晴らしい企画であった。今後もしっかりと推したい快著である。

「ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール」という素晴らしい教科書が出版されたのも今季であった。リウマチ膠原病の診療で最初のおすすめはと、医学生・研修医に訊かれたらこれを推すことにする。なお、網羅性も重視してあるため、リウマチ膠原病の患者当事者などがこの書を読んでも、全く役立たないのでお気をつけを。

「極論で語る神経内科 第2版」もさすがの内容であった・・・。このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトしたい。

「オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips」は、ケースレポートを世に出すことの手引き書で、拙著でも「はじめての学会発表 症例報告(2016年, 中山書店)」を類書があるが、この本はそれを遥かに凌駕している。

「虜になる循環の生理学 循環とは何か?」はむしろ、私が評などをするまでもないベストセラーであり、もちろん内容も素晴らしい。受賞でもおかしくなかった。



あらためて、作品『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』に祝福の意を示したい。そして、第3回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和     


第1回「國松淳和賞」



第1回「國松淳和賞」は、『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に決定しました!受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



今年は、自分の感受性のせいなのか、「断然これだ」のような電撃的な医書はなかったと感じた。先に申し上げておくが、ノミネートされた他の本も非常に良い本であった。

受賞した、『腹痛の「なぜ?」がわかる本』は様々な意味で衝撃的な本だった。よく分からずに読んだら、いや、よくわかっていない人がこの本を読んだら「この本は少し理屈っぽいな」と思うかもしれない。

この本からは、筆者の、年月を経て重厚になって揺るがない「哲学」のようなものが、ズシーンと衝撃波のような感覚で伝わって来る。

その哲学が医学書という実用書として具現化されたのが、この本の第1章。すべてはこの1章だと思われる。この章の”総論性”つまりは”原理”があまりに揺るがないため、その記述量は多くない。

ただ、どんなに腹痛診療に慣れようとも、この第1章に戻り確認するといい。武道やスポーツで、自分の「型」やフォームを折りに触れ確認するように。

そんなように使う本なのだと思った。

筆者が、事実上「匿名」を利用していることの不満があるということを知ったが、誰が書いたかが重要になるような記載内容ではない。それほどまでにこの本の記述は、圧倒的だと思う。

この本の中に書かれていることと同じことができる外科医もいるかもしれない。しかしこの言語化は、飛び抜けている。単に文章力のようなことを言いたいのではない。

ぜひ、手元におき、皆様の”素振り”に役立てますよう。


さて惜しくも賞を逃した、


高齢者のための高血圧診療(名郷直樹)

精神症状から身体疾患を見抜く(尾久守侑)

本質の寄生虫(岩田健太郎)


の3作品も素晴らしいものだった。

名郷直樹氏の「高齢者のための高血圧診療」は、実用書にたりえなかった感は否めない。しかし、書籍の隅々まで名郷直樹という”思想家”の箴言が余すことなく散りばめられていた。

尾久守侑氏の「精神症状から身体疾患を見抜く」は、流麗な文章が気を惹くが、企画・内容は極めて斬新かつ堅実である。題名がそのまま臨床現場でのテーマになっており、あるいは精神医学を少し齧れるような内容にもなっている。いずれにせよ、全・内科医および全・精神科医の必携の書になった。また、尾久氏の初の医書であり、新人賞なるものがあれば間違いなく受賞するであろう。

岩田健太郎氏の「本質の寄生虫」こそが、今年最も過小評価された書かもしれない。テーマの切り口と構成が秀逸だったが、今年はコロナウイルス以外の病原体がほとんど話題にならなかった。この本の関係者の怨めしい思いが聞こえてくる。専門家が、専門家以外の人に向かって話し言葉で説明するその「言葉」こそが宝なのだ。岩田氏はそこを知り抜いていて、しかもそれを書籍出版というかたちで著した。何も創り出せないような外野が「彼」を批判しようとも、「この本」の価値を下げる資格はないだろう。


あらためて、作品『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に祝福の意を示したい。そして、第2回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。

國松 淳和     






プロぷよら〜をあきらめた理由



大学時代に私は講義や実習にも出ず、ぷよぷよをしていた。
雨の日も風の日も、雪が積もった日だって、日々日常の視界には、何をしていても上からぷよが落ちてくる。落ちてくる。

積み、挟み、仕掛け、千切って、消す。
ぷよる。
あれだけぷよっていれば脳がぷより始める(もう意味不明)。

今や少しムーブメントがみられるが、これはプロゲーマーになれるのではないかと思った。
ぷよぷよは競技性もエンタメ性も高い。技術や戦術も奥が深い。これは来ると思った。

講義も実習もサボる僕が医者になれるとも限らないし、なれてもイマイチな医者になる可能性は高い。
何か副業かそれ以上のものが必要かもしれないと思ったのだ。

そう思ってますますぷよぷよに打ち込んだ。
気分はもう完全に武道である。

が、私はある時気づいてしまったのである。

あれは確か御茶ノ水のゲームセンターだったと思う。
名うてのぷよら〜たちがいたところだったが、とあるぷよら〜のプレイをみて思った。

他人のプレイを見ているときは、自分ならこうするとトレースしながら見るものだ。
そのぷよら〜は速さとか戦術は別に自分と大差ないと思った。
しかし、何かが自分と違う。瞬間的な判断力・・?すぐにわからなかった。
超えられない壁を感じたのが、それを言語化できなかった。

帰り道に、御茶ノ水のバーガーキングでハンバーガーを食べている最中、もう9割がた埋まったバーガーキングのスタンプカードをぼーっと見ながら閃いた。

色だ。

色なんだと思った。
ぷよぷよには、青ぷよと紫ぷよがあって、おそらく通常・正常のプレイではなんの問題にもならない。しかし最強界では一瞬の判断の差が重要になってくる。

あのぷよら〜と自分との差は、おそらく、「NEXTぷよ(次と、次の次に落ちて来るぷよぷよの組)」の色を瞬間的に認識するのが劣っているのだ。そういう仮説を思いついたのだ。

確かにそれより前から「色」は弱かった。
自分がこういう色だと思っていたものが、他人と認識が違かったことは何度もあった。ちなみに今もある。

寂しい話だけれど、そのあとくらいから急速にぷよ熱(ぷよぷよフィーバー)がおさまってしまった。

あのとき僕は確かにプロぷよら〜を目指した。
なっていたら今頃sSports界で有名人となり年間数億稼ぐプロゲーマーに・・・

まあなっていない可能性の方が高い。
高いかもしれないが、大学生・國松淳和はあのとき確かに頂上を目指した。
今は歳をとり、頂上だけが全てではないと思えるまでは熟したと思う。

ただ今は、いろんな意味(察して)でプロ業界に身を置いていないこともない。
不規則かつ瞬間的に現れる青ぷよと紫ぷよの色合いの差を平然と弁別することが、それが毛髪の直径くらい小さな差であっても、とても大事で大きな差に繋がるのだ。そう心得ていようと思った。






「また来たくなる外来」の解題:難しいことは抽象的に書いてある




「また来たくなる外来(金原出版)」

はじめに端的に申し上げると、この本は読む人の「居場所」によって読後感が大きく変わるという仕掛けをしてあります。
もっというと、俯瞰できる人はこの解題を読めばこの本に大きく「3つのレイヤー」があることを感じ取ることができると思います。
この書きだし、どう思われましたか。ふーん。ほぅ。むかつく。色々あるかと思いますが、非常に挑戦的だと思いませんか?そうなんです。
私は以前、自分のfacebook記事(プライバシー設定は"公開")で以下のような文を書いていました。長いですがまずこれを全文そのまま引用します。


-----引用始まり-----
抽象理解、というものに近年非常に関心があります。皆さんは本とか情報を読んだ時に、具体的な事柄・概念を、まさにそのように取り込んで理解はすると思いますが、思考のクセなのか、その文字情報以上の内容を受け取って、正にも負にもインパクトを受けることってあると思います(押し付け)。
「そこ」にあるのが抽象概念であり抽象理解だと私は思っていて、これを、言語や議論を使って教え教わることは、そのメソッドやアプローチごとまだ一般的にされていないと思います。「学術」「エビデンス」というものと、やや遠くなるように思えるからだと思います。
さて拙著「また来たくなる外来」ですが、具体的内容・表紙のうたい文句、だけで判断して捨て去られるには勿体無い本かと自分で思うので、つまり『余力で、その辺のチャラ新書みたくサクッと』書いたわけではないので一度しっかりお伝えしようと思います。
この本は、
具体的事柄だけ読むと、医師にとっては比較的当たり前、のことが書いてあります。
しかし、抽象的概念を伝えること・抽象理解を促すことを、徹底した意図としていますので、読後感あるいは行動や思考の変容に、はっきりと反映するのはだいぶ後になると思うのです。
この意味で、立ち読みや借り物で判断して欲しくないという営業的常套句も言いたくなるのですが、そうではなく、医師の皆さんに対して、(一見優しい装丁と語り口調なのですが)極めて挑戦的な内容になっています。この春出した私の本の中では一番「オラついて」おります。
読んだ方ご自身が、抽象概念を捉えることができるタイプか、抽象概念を理解することができるタイプか、抽象概念で思考できるタイプか、抽象理解を人に伝えることができるタイプか、・・・などを、この本を読んだ後に内省してみるのもこの本の楽しみ方の一つかもしれません。
つまりは、何科の先生でも、病院勤務でもクリニック勤務でも、医師ではなくても、読める・読んでいい、そういう書になります。
すました顔して、相当先駆的な仕掛けをしてあるこの本をぜひよろしくお願いします。
(こんな自著を推す人もいないでしょうけど、診療のことではなく、芸のことなので宣伝します)
-----引用終わり-----


これ書いた時は必死で売りたかったせいか、少し文章が迸っていますね。抽象だの具体だの。
今回は、このことを図を用いて解説したいと思います。

ではまずこれを見てください。縦軸に具体-抽象、横軸に難-易と座標軸をとります。すると、おきまりの2×2の4分割表ができます。



そこで「また来たくなる外来」について1つ目。
実はこの本は、難しいことは抽象的に書いてあります。
言い換えると、難しく具体的なことは書いてありません。

2つ目。「一般のかた、あるいは医学生」のような臨床に携わっていない人が読んだ場合、細かいことはなんとなくわからなかったけれどもなんとなくわかって、勉強になったという気分になると思います。何より「読めた」と思うと思います。
これはなぜかというと、抽象的な事柄のうち易しい内容については理解できたからです(先ほどの図の右上)。

3つ目。「初学者、研修医、医師以外の医療従事者など」のような、臨床医学の世界にある程度入っている・携わっているけれど経験がまだ浅い人が読んだ場合。
この場合は、易しく具体的な内容が頭に入って来て、「役に立った」と感じると思います。

これを先ほどの2×2分割表を使って示すと、こうなります。



いかがでしょうか。「見える」人であれば、この◯の3つがわかるはずなので、冒頭で申し上げたように、この本に大きく「3つのレイヤー」があることを感じ取ることができると思います。

ここまでで話題にしていないのが、分割表内の「具体的な難しいこと」の領域(左下)でした。ここに入る事柄を意図的に書かなかったことの背景について解説します。

1つは、昨今の「易しい医学書」が望まれている風潮です。もちろん「わかりやすい」というのは「易しい」とは違う!というのことはわかっていますよ。でも、わかりやすいを求めるあまり、「易しい」になっている医学書は多いです。
これはもちろん書き手の意図も大きいのですが、難しい内容の医学書は避けられる傾向にある現状というのもあると思います。
こういう風潮について古参の医師からは「けしからん」とお叱りがあるかもしれませんが(どちらかというと医学書に関しては私もそちら寄りですが)、難しいことを魅力的に伝えなかった書き手の責任もあると思います。

逆に今売れているものは、右下の領域の内容が詰まった「網羅本」です。これなら自分でもわかる!という基礎的な内容(基礎は大事です)が具体的に網羅されているような本。これは好まれます。
もっと良いとされるのは、それが「まとめて」ある本です。これは売れますね。
つまり2×2座標の右半分の領域の事柄は、本を売ろうとするからには外せない記載だというわけです。「また来たくなる外来」も当然ここの領域のことは述べています。

もう1つ。
次はこの2×2座標による区分を、「本の内容」の区分ではなく、「読み手の思考」の区分だと考えて眺め直してみてください。



実は、ほとんどの医師(or 世間で優秀とされる人たち)は、左下の領域つまり難しいことでも具体的に考えられる人たちです。
この領域の能力を持っている人は、そのまま右方の「易しい具体的内容(右下)」も当然理解できますからここはある意味上位互換です。
また、易しい内容であれば、抽象的なことも理解できてしまいます。つまり右上の領域も理解できます。
ちなみに、座標右下つまり「易しい具体的なこと」というのは「ガイドライン(的なもの)」に相当します。座標右上つまり「易しいが抽象的なこと」というのは「教科書や大学の講義(的なもの)」に相当すると思います。



ただし、です。
これは私の考えですが、座標左下の領域の人たちは、その直上である左上の思考が苦手です。極端にいえば、ここに厚い壁(図中赤色の太い棒線)があって、ここを乗り越えられません。抽象思考・抽象理解ができない優秀な人が、医者には意外と多いのです。



つまり、左下の領域にいる人たち(多くの医者がそうであると思われます)から見ると、左上の領域は「見えない」ので、この「また来たくなる外来」という本を読んだ時に、2×2分割表のうち右半分しか見えないということになります。

すると、そんな人が読んで書評なるものをした場合にどうなるでしょうか。わかりますね?
「もう知ってることばかり書いてあって、なんだか当たり前のことがつらつら書いてある」
となることでしょう。

医学書が医者のためであり、ほとんどの医者が座標左下の領域の思考の持ち主である以上、医者が好む医学書は「基礎から難のレベルまで幅広いことが具体的に書いてある書」ということになります。つまり、2×2分割表の下半分です。

そうすると、また来たくなる外来という本については、そうではない(2×2分割表の下半分から成るわけではない)ですので、なんだか納得のいかないor当たり前のことばかりでつまらない本、という評価に繋がっていくわけです。怖いですね。

今回の解題部分の最初のほうで私はこう述べました。

 この本は、難しいことを抽象的に書いてあります。
 言い換えると、難しく具体的なことは書いてありません。

はい。堂々と、従前の多くの医師がしている思考に親和性の高い領域(左下)を意図的に外しているのです。
この意味で、私は非常に挑戦的なことをしているし、読者に対しても非常に挑戦的であると申し上げているわけです。

抽象理解を教えられるか。
要はそれに取り組んだわけですが、この本の読者は辛いですよ。
俯瞰するか、抽象思考を得るか、を試されているんです。私に。
感じたまま「冴えない本だ」と評しても良いです。ただ、ちょっと恥をかくかもしれません。あ、こんな老婆心要らないか。

この本を読んだ時、3つの折り重なる層が見えるか、あるいは簡単で当たり前のことしか書いてないように思えるか。

ぜひ、この解題ではなく、この本(また来たくなる外来)の感想を聞いてみたいところです。






メール一斉送信CCとバーベキューBBQ



ビジネス界隈?言っておいてこの言葉もよくわかりませんが、臨床職人である國松も最近では、他職種の人たちとのやりとりが増えて来ました。

臨床医っていうのは本当にダメな人種で、業務がタフすぎるせいか、つい感情的になっちゃう生き物です。

ところで私はバーベキューが昔から嫌いです。

嫌いな理由の1つは、まず屋外で物を食べるということです。
食べ物は屋内で食べたいです。

2つ目は、片付けが面倒くさいという点です。
ほら、片付けをサボると人間性を疑われるじゃない。

最後は、オーガナイザーのあの謎の陽キャから派生する人間関係の不快です。
オーガナイザーは良いですよ。私の直接の知り合いだから(知り合いじゃないバーベキューなんて絶対行かないです)。

しかしバーベキューなる慣習行事から来る不快の一番の本質は「友人の友人が友人とは限らない」というところにあると思います。
オーガナイザーたちの「面白いやつが来るから来なよ」「ミンナトモダチ」感である。

情報はシェア、みんないいやつだから、きっと楽しい。

この「陽」を、私は相容れることができない。

ビジネスメールの一斉送信「CC」もそうだ。
初回のメールなのに、複数の人に勝手にcc一斉送信されていることがあるが、あれは私は不快だ。
必要性と紹介があって、それを互いが事前に了解している時に複数送信するものと理解しているからだ。


大切な1:1のやりとりを、勝手に外にシェアしないで欲しい。