第4回「國松淳和賞」は、『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』(中外医学社)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。
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2023年もまた、ノミネート作の選考、また受賞作品の選考自体もやや消極的な意味で難航した。ただそういう年こそ、この賞の意義があると思った。
『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』は、非常に良い企画、良き内容だった。詳しくは読んで欲しいが、この領域についての問題点が、細かく網羅されていた。このテーマだけでこの厚み。見事というほか無い。
大きなテーマで、大まかに網羅されていることはよくある。結果として内容が薄まる。しかしこの本は、救急医療の臨床をやっていないと問えないテーマがきちんと濃厚に網羅されていた。
また共同執筆にもかかわらず、不思議と内容のバラツキがなく、記述内容自体も良かった。編者の実力なのだと思う。
この本の末恐ろしいのは、適した読み手が「救急医」にとどまらないところだ。研修医、外来をやる医師、...のみならず医師以外の医療者にも有用かもしれないと思った。ぜひ書店で立ち読みして、確認してみて欲しい。
さて惜しくも賞を逃した、
・その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ(メディカルサイエンスインターナショナル)
・General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls(Gakken)
・神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ(医学書院)
・自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック(金芳堂)
・偽者論(金原出版)
・急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT(金芳堂)
・J-IDEO (ジェイ・イデオ) : (次の2つの号をノミネート)Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths、Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ(中外医学社)
・みてわかる!ニキビ診療虎の巻(南江堂)
・解剖から理解する頚椎診療(日本医事新報社)
・患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法(医学書院)
・はじめての精子学(中外医学社)
以上11作品も素晴らしいものだった。
「その症状はこう読み解く!臨床に役立つ神経解剖のツボ」のような書籍こそ、臨床医の実力アップに必要な本だと思う。通読するにはタフな内容だが、外来に置いておき、たまに開いて参照して読むというのが適切な使い方だと思った。
「General Radiology画像診断演習: Pearls and Pitfalls」は、とにかく解説が充実している。よって勉強しやすく、実力が付いたという感触を得やすい。
「神経症状の診かた・考え方――General Neurologyのすすめ」は、単著で書かれた名著の改訂版だが、見事である。単著は、一臨床家の独りよがりだという批判を受けるリスクがあるが、福武先生の物言いはとても穏やかで内容も誠実なので、読み手に安心感を与える。
「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」は、網羅した本の中では最高峰で、このテーマでまとめて世に出したことの意味が大きい。このテーマの雑誌の特集号をもう買わなくてよくなったという手応えを持った。
「偽者論」は、國松個人の後輩・知己の著した書であり、なるべくそこ(COI的なもの)を排さねばらならず受賞は逃したが、ノミネートは妥当であろう。今年何回も読み直した。装丁やレイアウトに惑わされてはいけない。誠実な臨床の実用書だと思う。決して、キワモノ・企画モノの書ではない。
「急性腹症の診断レシピ 病歴・身体所見・CT」は、窪田先生の最新刊であったのでノミネートした。窪田先生は素晴らしい。
「J-IDEO (ジェイ・イデオ) 」は、次の2つの号をノミネートした。
・Vol.7 No.3 膠原病と感染症―Pearls and Myths
・Vol.7 No.4 急増する非結核性抗酸菌(NTM)症にそなえよ」
この「非コロナ」の2テーマの号が非常に秀逸だった。なんでもかんでもコロナに寄りかかっていたこの時期に、コロナ以外のテーマを企画し仕上げた号であり、そこに敬意を表したい。個々の著者はもちろんだが、編集部に対してのノミネートである。
「みてわかる!ニキビ診療虎の巻」は、なかなかこのテーマで一冊という企画はなく、感動した。内容もわかりやすい。内科医もこの内容は小技として診療に取り入れたい。
「解剖から理解する頚椎診療」は、この本は非常におすすめである。内容だけで言えば退屈しそうな内容なのに、なぜか読みやすい。「頚椎への愛に満ちた編者2人による頚椎の解剖と疾患解説はわかりやすいのはもちろん、読み進めるとワクワクが止まりません」というコピーが、あながち誇大広告ではない。
「患者の意思決定にどう関わるか? ロジックの統合と実践のための技法」は、読書好きの人が好きそうな内容。が、國松は読書家ではない。もともと「医師アタマ」の読者であった私が、時を超えてこの本に出会いリスペクトの意味でノミネート。内容は、私が成長した分、感動は少なかったが内容がさすがであった。
「はじめての精子学」は、完全に今年の”企画賞”であろう。ある細かいテーマで一点突破して一冊にするという概念自体は新しくないのだが、このテーマ(精子)は思いつかなかった。素晴らしい。内容は、マニアックなものではなく、どちらかというと抽象テーマという位置づけで、内容はかなり広範囲である。
あらためて、今回の國松賞受賞作品『救急外来でコミュニケーションに困ったとき読む本』に祝福の意を示したい。そして、第5回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。
國松 淳和