第3回「國松淳和賞」

  


第3回「國松淳和賞」は、『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』(丸善出版)です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。

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2022年は正直言ってあまり強い作品がなかったように思った。コロナ禍となってから企画されてそれがなんとか結実した書籍たちが、2022年に発売されたということかもしれない。いろいろな制限のなか世に出た本たちだと思うと感慨深い。


『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』の受賞の理由は、「初期研修医全員が読むべき本」だと強く強く思ったからである。これに尽きる。


発熱した患者に血培を採る、アナフィラキシーの対応を勉強しておく、胸痛をきたす致死的な疾患を知っておく....のように、初期研修で習得すべきことがある。


本書は、「睡眠薬処方」が初期研修での習得必須項目になるべきであることを大いに示し、それだけでなく、その習得のための良いテキストになっているという点で比類がない。


(ある意味では)概念の創出、専門医としての総論力の深み、記述の分かりやすさ、どれをとってもかなわないのである。本書の存在意義は大きい。


情報量が多い!まとまってる! ...のようなことを本の良さと考えている諸氏には拍子抜けする本かもしれない。しかし、多くの人にとって大きく考え方が変わるかもしれないという種類の本は、このような本だったりするのではないか。


研修医や新しく研修医になる人たち全員が、この本を手にして読まれることを期待する。



さて惜しくも賞を逃した、


ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編(メディカル・サイエンス・インターナショナル)

女性内分泌 みえる!わかる!(メジカルビュー社)

骨代謝マーカーハンドブック(日本骨粗鬆症学会)

トラブルを未然に防ぐカルテの書き方(医学書院)

消化器疾患のゲシュタルト(金芳堂)

速考!脊椎外来診療エッセンス(南江堂)

Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)(南山堂)

絵でわかる漢方処方(南山堂)

お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版(南山堂)

不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ(新興医学出版社)


以上11作品も素晴らしいものだった。


「ジェネラリストが知りたい膠原病のホントのところ」は、あまり隠れてもない名著で、しかしこれは思われているよりもアドバンストな内容な気がする。個人的には大変に役に立ったので続編を期待したい。


「外来で診る“わかっちゃいるけどやめられない”への介入技法 動機づけ面接入門編」は、このような内容が、大変優しく、実践しやすいように記述されていて、好感を抱いた。


「女性内分泌 みえる!わかる!」は2022年で至高の”教科書”と言えたと思う。限りなく次点であった。解剖や生理学からきちんと記述されており、学生、研修医、ベテラン医、非専門医、あまり読者を選ばない。しっかりと基礎から学びたい人におすすめする、安心の一冊である。


「骨代謝マーカーハンドブック」は、この分野だけで一冊となるアイデア、本のサイズや記述の内容、すべてにおいて秀逸だった。


「トラブルを未然に防ぐカルテの書き方」は、この分野の内容としては非常にわかりやすかった。網羅的でもあり、大変参考になった。


「消化器疾患のゲシュタルト」は、さすがの構成力だった。内容も言うことがなくくらい素晴らしい。ただ國松が執筆を一部担当しているので、そこが受賞の対象外となってしまう点だった。


「速考!脊椎外来診療エッセンス」は、完全に書名通りの内容で、簡潔かつ実践的な内容が素晴らしい。大変役に立った。


「Common Diseases Up to date (適々斎塾指南書)」は、本当に素晴らしい企画であった。開業するなど、今後外来を中心にやっていきたい医師は必読と思われる。


「絵でわかる漢方処方」は完全にアイデア賞である。「もうほんとこのまんま人(患者)」みたいな事例が多く、隠れて界隈で騒然となっている本。今後、ちょくちょく勧めていく予定の本である。


「お母さんを診よう プライマリ・ケアのためのエビデンスと経験に基づいた女性診療 改訂2版」もさすがの内容で、十分受賞候補だったが、前年(第2回)の受賞作とコンセプトが被る面があり受賞を逃した。ただ、このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトする。書名も良い。


「不安症と双極性障害 コモビディティに学ぶ」は、双極性障害とその周辺を、標準的に抑えたい諸氏にもおすすめする。私のような内科医にちょうど良いのではないだろうか。不安症の診療の中で「双極性に鋭敏になる(p.114)」ことは、抽象的には非常に重要な思考であり、この種の思考が精神科医に精通していけば、精神科における身体症状診療が盛り上がっていくのではという期待を持って選考した。



あらためて、今回の國松賞受賞作品『睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本』に祝福の意を示したい。そして、第4回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和