第2回「國松淳和賞」

 


第2回「國松淳和賞」は、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』です。受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



2021年は昨年と違い、選考が難航した。その理由も明確で、下記ノミネート作品の多さからもわかるように、純粋に良い本がたくさんあったように思った。ノミネート外となった作品にも良いものがあり、つまりは「たくさんあって迷った」のだった。


受賞した、『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』は、國松の選ぶ本としては意外に思われるかもしれないが、この本はとにかく総合点として快著である。


意外な点、というのはこの本が単著ではないというところだと思う。つまり分担執筆なのだが、責任編者自身もかなり記述しているし、他の先生も単著を張れるくらいのパワフルな執筆陣である。


個人的に一番決定的なポイントは、「内診台がなくてもできる女性診療 」という書名である。このフレーズ、最高である。内診台がなくてもできる女性診療・・・・。逆にマイナス点は、タイトルの「内診台がなくてもできる女性診療」以外の飾りだと思う。


”専門医からのアドバイス”

”外来診療からのエンパワメント”


これは・・・要らないのではないか。おそらく出版社がつけたサブ的表題だろう。「内診台がなくてもできる女性診療」だけだったら、こんな余韻をひき、魅力的な素晴らしいタイトルはない、と思う。


「内診台がなくてもできる」の修辞力の強さを、関係者はもっと噛み締めたほうがいい。「内診台がなくてもできる」の含意を、1時間くらいかけてディスカッションしてみたらどうだろうか。

内診台がなくてもできる。なんとパワフルなフレーズだろう。これだけで受賞をかっさらって行ったと言っていい。


内容も十二分である。好感を持てたのはまずはその網羅性である。だから、通読すれば文字通り体系に触れることができ、勉強になる。


おそらくであるが、これは医師以外、あるいは医療従事者以外の人にでも読める内容だと思う。確かな教養の軸として、文字通り一家に一冊あるといいかもしれない。


最後に、この本の企画の成功の1つは、責任編者の人間的魅力にあるだろうか。このような本は、例えば大学教授などによるトップダウン方式では、成功なし得ない。分担執筆でいながら、皆が思考として同じものを目指しているという、編集本の理想中の理想が、この本は成功の結実として体現されている。



さて惜しくも賞を逃した、


・解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study

・サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床

・消化器診療プラチナマニュアル

・診察室の陰性感情

・ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて

・誤嚥性肺炎の主治医力

・免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から

・すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで

・ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール

・極論で語る神経内科 第2版

・オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips

・虜になる循環の生理学 循環とは何か?


以上12作品も素晴らしいものだった。


「解いて学ぶ!「おとな」の食物アレルギー 思春期〜成人の食物アレルギー43のCase Study」は、極めて斬新な企画で、軽妙なケーススタディ方式であるものの、とても引き込まれる内容になっていた。

「サイカイアトリー・コンプレックス 実学としての臨床」は、たぶん4, 50年くらい先取ってしまったような内容であり、素晴らしい。この本を単なるエッセイと揶揄する者は、どういう了見だろうか。エッセイでは全く無い。その評は、今から撤回したほうがいいかもしれない。

「消化器診療プラチナマニュアル」も良かった。この小さなサイズで、消化器のアンチョコが今まであったようでなかった。外来で役立つ。

「診察室の陰性感情」は、限りなく次点であった。私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「ねころんで読めるワクチン 知ってるつもりがくつがえる医療者のためのワクチン学入門書 やさしく学ぶ予防接種のすべて」もこの時期に出版できた、全関係者の行動力にリスペクトしたい。

「誤嚥性肺炎の主治医力」も、内容はもちろんだが、書名が素晴らしい。「内診台がなくてもできる女性診療」とセットで、今季の”書名賞”だと思う。

「免疫関連有害事象irAEマネジメント 膠原病科医の視点から」もまた、限りなく受賞の次点だった。ただいかんせん・・・私の恩師であり、義理的COIが濃すぎたのが受賞を逃した理由である。

「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢 基本知識から疾患研究、治療まで」は、本当に素晴らしい企画であった。今後もしっかりと推したい快著である。

「ケースでわかるリウマチ・膠原病診療ハンドブック 的確な診断と上手なフォローのための臨床パール」という素晴らしい教科書が出版されたのも今季であった。リウマチ膠原病の診療で最初のおすすめはと、医学生・研修医に訊かれたらこれを推すことにする。なお、網羅性も重視してあるため、リウマチ膠原病の患者当事者などがこの書を読んでも、全く役立たないのでお気をつけを。

「極論で語る神経内科 第2版」もさすがの内容であった・・・。このような良き本がきちんと改訂されて世に出ることの手間と努力を関係者にリスペクトしたい。

「オールインワン経験症例を学会・論文発表するTips」は、ケースレポートを世に出すことの手引き書で、拙著でも「はじめての学会発表 症例報告(2016年, 中山書店)」を類書があるが、この本はそれを遥かに凌駕している。

「虜になる循環の生理学 循環とは何か?」はむしろ、私が評などをするまでもないベストセラーであり、もちろん内容も素晴らしい。受賞でもおかしくなかった。



あらためて、作品『専門医からのアドバイス/内診台がなくてもできる女性診療 外来診療からのエンパワメント』に祝福の意を示したい。そして、第3回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。今年もお疲れさまでした。


國松 淳和