第1回「國松淳和賞」



第1回「國松淳和賞」は、『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に決定しました!受賞おめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。以下に所感を述べさせていただきます。



今年は、自分の感受性のせいなのか、「断然これだ」のような電撃的な医書はなかったと感じた。先に申し上げておくが、ノミネートされた他の本も非常に良い本であった。

受賞した、『腹痛の「なぜ?」がわかる本』は様々な意味で衝撃的な本だった。よく分からずに読んだら、いや、よくわかっていない人がこの本を読んだら「この本は少し理屈っぽいな」と思うかもしれない。

この本からは、筆者の、年月を経て重厚になって揺るがない「哲学」のようなものが、ズシーンと衝撃波のような感覚で伝わって来る。

その哲学が医学書という実用書として具現化されたのが、この本の第1章。すべてはこの1章だと思われる。この章の”総論性”つまりは”原理”があまりに揺るがないため、その記述量は多くない。

ただ、どんなに腹痛診療に慣れようとも、この第1章に戻り確認するといい。武道やスポーツで、自分の「型」やフォームを折りに触れ確認するように。

そんなように使う本なのだと思った。

筆者が、事実上「匿名」を利用していることの不満があるということを知ったが、誰が書いたかが重要になるような記載内容ではない。それほどまでにこの本の記述は、圧倒的だと思う。

この本の中に書かれていることと同じことができる外科医もいるかもしれない。しかしこの言語化は、飛び抜けている。単に文章力のようなことを言いたいのではない。

ぜひ、手元におき、皆様の”素振り”に役立てますよう。


さて惜しくも賞を逃した、


高齢者のための高血圧診療(名郷直樹)

精神症状から身体疾患を見抜く(尾久守侑)

本質の寄生虫(岩田健太郎)


の3作品も素晴らしいものだった。

名郷直樹氏の「高齢者のための高血圧診療」は、実用書にたりえなかった感は否めない。しかし、書籍の隅々まで名郷直樹という”思想家”の箴言が余すことなく散りばめられていた。

尾久守侑氏の「精神症状から身体疾患を見抜く」は、流麗な文章が気を惹くが、企画・内容は極めて斬新かつ堅実である。題名がそのまま臨床現場でのテーマになっており、あるいは精神医学を少し齧れるような内容にもなっている。いずれにせよ、全・内科医および全・精神科医の必携の書になった。また、尾久氏の初の医書であり、新人賞なるものがあれば間違いなく受賞するであろう。

岩田健太郎氏の「本質の寄生虫」こそが、今年最も過小評価された書かもしれない。テーマの切り口と構成が秀逸だったが、今年はコロナウイルス以外の病原体がほとんど話題にならなかった。この本の関係者の怨めしい思いが聞こえてくる。専門家が、専門家以外の人に向かって話し言葉で説明するその「言葉」こそが宝なのだ。岩田氏はそこを知り抜いていて、しかもそれを書籍出版というかたちで著した。何も創り出せないような外野が「彼」を批判しようとも、「この本」の価値を下げる資格はないだろう。


あらためて、作品『腹痛の「なぜ?」がわかる本(腹痛を「考える」会)』に祝福の意を示したい。そして、第2回「國松淳和賞」の候補となろう、来年に発売される医学書に期待を込めて、今回の所感としたい。

國松 淳和