取らない痛み



医学書院の雑誌「総合診療」2020年5月号を読んだ。

この中で一番良かったのが「アスクレピオスの杖」という連載の、瀬戸雅美先生の「病魔は突然、人生を一変させる」という記事だった。

16歳の男子高校生が脳炎となり、昏睡に至り、のちにエンテロウイルス71脳幹脳炎と判明する。
長期の闘病の末、入院100日後にずっと昏睡状態だった患者さんと目線があったという。

この瞬間の感動を想像すると、下手な表現で恐縮だが涙が出る。
その後、この患者さんは自分で食事が取れるようにまでなったという。

さて、この記事に心打たれたのは、このケースの臨床的などうこうではない。
筆者である瀬戸先生の心の動きが、こちらの心に沁みてくるのだ。
といっても、私が感じた「沁みる」は、心地の良い「深く感じ入る」というものではなかった。
なんというか、虫歯が沁みて痛い、あのような感じだった。

私が初期研修医の頃、つまり今から17年も前のこと。
10代の脳炎の女の子の受け持ちになって、治療にあたった。
残念なことに、亡くなってしまった。
今、自分が最初から診断・治療をしていたらどうなっただろうか。
そんなことは、私の脳内でしかできないことだけれど。

私はこういう時、勝手に過去をいいように清算して昇華して、
「これからは頑張ります!」みたいになるのが、大嫌いだ。
後悔など消えない。
消してもいけない。
ずっと、たまに思い出して、こういう辛い気持ちを持ったまま生きていきます。
その「たまに思い出して」が、
たまたま今回は瀬戸先生の記事だったというわけ。


心に沁みるという名の過去の痛みは、慣れずにおこうとまた思った。